まいちょんの学びの部屋

アメリカ在住打楽器奏者の日々の学びをシェアするブログ

マリンバについて真剣に語ってみる

こんにちは。アメリカで打楽器やってるまいちょんです。

今回はマリンバについて真剣に語ってみようと思います。

 

先日、アーカンソー州のアーカデルフィアという小さい町にあるOuachita Baptist Universityという大学でSpiral Staircase Duoのリサイタルをしました。私は全く知らなかったんですが、このアーカデルフィアという町にはDoug DeMorrowのマリンバの工場があったんです。

リサイタルをするにあたって大学のマリンバを借りられるか聞いてみたところ、大学の先生から、すごいマリンバの宣伝をされました。

  • うちにはDoug DeMorrowの超大作のアーティストマリンバがあります!
  • これはDougが8年間かけて集めたよりすぐりの鍵盤を使って作られてます!
  • プロジェクション、サウンドクオリティーも申し分なし!
  • 世界に一つしか存在しない名作!

等々、全然聞いてもいないのにメールのやりとりするたびに毎回「このマリンバは本当にすばらしい!」っていう内容が込められて返ってきました。

DeMorrowマリンバは噂にはよく聞いていたブランドでした。毎回このブランドで耳にするのが、

  • Doug DeMorrowさんというおじいちゃんがアーカンソーのド田舎で一人手作りでマリンバを作っているらしい。
  • DeMorrowマリンバを知っている人はみんな口をそろえてこのブランドを推薦する。
  • 手作りなので大手ブランドのマリンバより割高で、順番待ちリストが長い。
  • MalletechマリンバのLeigh Stevensが鍵盤やパイプのデザインを盗んだという噂。 

マリンバ大手メーカーをざっくり紹介

アメリカで有名なマリンバの大手四大ブランドは

  1. Yamaha
  2. Adams
  3. Malletech
  4. Marimba One
  • Yamahaは安倍圭子が日本はもとより世界で活躍してマリンバを推奨したお陰でアメリカでも有名な日本ブランド。高音が良くなってシロフォンのようなサウンド。安倍圭子シリーズが有名。
  • Adamsはオランダの会社。鍵盤があまりそば鳴りしないダークなサウンド。一番小さく軽いので持ち運びやすいけど壊れやすい。Yale大学教授のRobert VanSiceシリーズが有名。
  • Malletechはアメリカで有名なスティーブンスグリップを発明したLeigh Stevensの開発したブランド。真鍮の円形パイプそれぞれにストッパーがついてパイプのチューニングが可能。鍵盤の幅がかなり大きく、楽器も巨大で重さもそれなり。ノースウェスタン大学のMichael Burrittシリーズなどが有名。
  • Marimba OneはカリフォルニアのRon Samuelが作った会社。中型で低音がよく響く。ボストン大学のNancy Zeltsmanや大茂絵里子などがアーティスト契約している。

 

私のマリンバブランドに対する見解

実はぶっちゃけブランドはどうでもいいと思うんです。

私も若いころは先生のうけうりみたいに言われたことを信じて、私の先生がこれがいちばん素晴らしい楽器でいい音が鳴るって言ったら本当にそう思ってました。でも学校や先生が変わる度に意見が変わるんです。

今まで3つの大学で勉強しました。学部の時はヤマハ。修士課程ではマレテック。博士課程ではアダムスの先生につきました。全員が全員自分のブランドを推奨して他の楽器はヘボい的な意見でした。そしておもしろいくらいその先生につく生徒はみんな宗教みたいにそれぞれのブランドを崇拝してました。私もその一人でしたが、環境が変わる度にカルチャーショックを受けるように混乱しました。それを何回も繰り返す内に一つの結論にたどり着きました。

 

  • マリンバブランドにはそれぞれ違う個性があって、それを好きか嫌いかで判断できてもそれをかならずしも良い、悪いとは言えない。
  • 私の経験上、下手な人ほど楽器のせいにしがちで、ぶっちゃけ上手い人が同じ楽器弾いたらいい音がなる。楽器の個性をより上手に引き立てられるかは演奏者の力量による。
  • マレット云々、楽器云々言ってる前に腕を磨いてへぼい楽器でも魅力的に演奏できるように練習した方がいい。

 

ちなみに私のマリンバはマリンバワンです。マリンバワンを選んだ理由は大きさも音質も中道を行ってて、値段もお手頃価格で、サービスもよかったからです。

そしたらマレテックの先生から電話がかかってきてめっちゃ怒られました。その後マレテックの人から、いかにマレテックの方がマリンバワンよりいい楽器かっていう内容がつらつらつらつら書かれたメールが届きました。しかも社長のスティーブンスがメールにCCされてて、私はブラックリストに入れられて私のマリンバ人生は終わったと思いましたが、後になって考えればなんてアホらしい。マレテックが必至すぎて笑えてくるほど。

 

まあそんなこんなでブランドは私にとってはどうでもいいんですね。なので今回のDeMorrowさんのブランドもぶっちゃけどうでもよかったんです。そんな素晴らしい楽器を使わせていただいてありがとうございます。ってノリでした。

 

Doug DeMorrowのマリンバに対する愛情

OBUにリサイタル前日の夜に着いてホールでサウンドチェックをしました。すると夜も遅いのにダグさん自らホールでアーティストマリンバと共にお出迎えしてくれました。噂に聞いていたダグさんはラピュタに出てくる炭鉱のおじいちゃんみたいな人でした。

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サウンドチェックを助けてもらえて良かったんですが、色々監視されてるみたいで緊張して全然集中できないという。。。どちらかというと、私が彼の大事なベイビーマリンバを粗末に扱わないか見張っている、または私がこのマリンバにどういうリアクションをするかを伺っている、というような印象でした。そして彼の一言一言に「ん?」ってなる事多々。

 

まず、私がこのマリンバを弾くに値する人物かどうかを私のビデオを見て事前調査したらしく、私がお許しをもらえたのは、安倍圭子のような弾き方をしないから。

 

 

www.youtube.com

 

安倍圭子はマリンバの鍵盤をよく壊すことで有名です。たたき方も日本人特有の和太鼓みたいな大振りで、硬いマレットで激しく弾く印象があります。アメリカのマリンバ奏者とは全然違うスタイルです。

 

ダグさんに言わせると、彼女の弾き方は見た目重視で楽器をただの道具としか捉えていない。マレットの柄で叩いたりするのなんてあり得ない。実際それで鍵盤が壊れることはないかもしれないけど、楽器を粗末に扱う態度が許せない。楽器はアーティストと同等のパートナーであって、そげに扱われてほしくない。

 

という事でした。

 

後日ダグさんのマリンバ工場に訪れてみて感じたんですが、彼は本当に根っからの職人で、自分の仕事に誇りを持ってました。有名になるとか、お金を儲けるとかよりも、クオリティーの高い芸術作品を作る事をモットーに、他のブランドがどんどん企業を拡大しているのに対して看板一つすらないガレージで作業して常にローズウッドと対話していました。

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同じ音の鍵盤でも音の響き方で5段階に分類して、練習用、コンサート用、などに振り分けて、その中で最も響きのいい鍵盤をアーティストマリンバに使ったらしいです。本人曰くこんなことをしているメーカーは他にないそうです。なので彼のアーティストマリンバの鍵盤は一つ一つ大きさや太さや色が違うんです。最初は弾くときに戸惑ったんですが、見た目よりも音重視。演奏していても、どちらかというと自然との融合、木と直接触れ合って対話しているような感覚になりました。

 

実際安倍圭子は楽器を粗末に扱っているのか

ダグさんの言う事はもっともなんですが、では実際安倍圭子や他のアーティストが楽器を粗末に扱っているかというと、それはそれで違うと思うんですね。

安倍圭子はアメリカでもマリンバ界の神様みたいな存在で、私も何回か彼女の演奏を生で見たことがありますが、オーラが違う。技術面では今の若い人の方がもっと手も早く回ってきちんと弾ける人も多いかもしれないけど、彼女が弾くと神が宿るような神秘的な現象がおきます。天女が踊ってるような演奏です。

実際彼女のお弟子さんの話を聞くと、彼女のレッスンもスピリチュアルで、最初の音を鳴らすまでの精神統一や音楽と一体化する事を重視されるそうです。

そんな彼女が楽器を痛めつけたり、お遊びのようなノリでマリンバの柄で演奏したりしているわけでは決してないはず。

 

安倍圭子の打楽器界への貢献

安倍圭子がなぜマリンバ界の神的存在になったかというと、彼女の打楽器界への貢献が素晴らしかったからです。

もともとマリンバはメキシコやグアテマラの民族楽器で、クラシック界で認められるようになったのも、安倍圭子を初め、1950年代以降の人たちの尽力のたまものです。彼女はマリンバ奏者としてマリンバの魅力を伝えただけでなく、レパートリーが少ないので、自らマリンバの曲を作曲し、さらには本物の作曲家に曲を依頼して、楽譜やCDを出版してマリンバのための曲を沢山世に送り出しました。ヤマハと契約して楽器の向上にも貢献し、5オクターブマリンバを作り出した一人でもあります。

 

Doug DeMorrowも同じ世代

私は、ダグさんも安倍圭子もマリンバに対する情熱は変わらない思います。安倍圭子もDoug DeMorrowもLeigh Stevensも方向性は違えど、マリンバの地位を向上させて世間に認められるレベルにした点では同じくらい評価されると思います。

工場を見学した時に色々熱く語ってくれたんですが、ダグさんは、マリンバをバイオリンと同等に扱ってもらえるようなクオリティにしたい。そのためには演奏者の価値観をまず変えないといけない。特にマリンバは打楽器で唯一ソロ楽器として通用する楽器で、他の楽器にも対抗し得るポテンシャルがある。だれもスネアドラムだけのソロコンサートには行きたがらないけど、マリンバの音には他の打楽器にはない魅力がある。との事でした。だからこそ尚更、楽器をそげに扱うことが許せない。ホルンをスティックで叩く人がいないように、マリンバも丁寧に扱われるべきである。との事でした。

 

私の見解

私も今のマリンバの地位が確立されたのは先代達の貢献のたまものである事は変わりないし、大衆楽器のマリンバを高級ブランドに作り上げたことは素晴らしいことだと思います。

ただ私が思うに、ダグさんは自分の作品を愛するあまり過保護になりすぎて楽器の魅力を表現する機会を失っているような気もします。

特に私は現代音楽を演奏する者として、楽器を通常通りに弾くことが必ずしも楽器の魅力を最大限に表現しているとは思えないんです。柄でたたく事で音に幅が出るなら、そして楽器を傷つけないなら尚更、それは推奨されるべきことだと思うんです。

老舗の寿司職人がアメリカの創作寿司を見て、高級な食材をままごとみたいに扱ってるって思うのも分からなくはないです。でもそういう新しい試行錯誤を繰り返す事は芸術の向上には大切だと思うんです。

例えばジョン・ケージは実験音楽家として音楽の幅を広げました。リビングルームの音楽とか、お風呂場の音楽とか、普通に考えたらおままごと的な曲や、雑音や偶然性ですら音楽の一つと定義されるようになりました。その後の打楽器音楽の向上にも大切な役割を担いました。

 

私にとってのマリンバ(打楽器)の魅力

私にとってマリンバの魅力とは、コンサートホールで煌びやかに演奏される楽器というよりは、もっと身近で自然なものでもあると思うんです。もともと民族楽器だった楽器を違う土俵でクラシックの価値観で並べて、クラシック新参者のマリンバが絶対王者のバイオリンとクラシック音楽で対決すること自体不利極まりない。対決する事でクオリティが向上するのはいいんです。でもそれがすべてではないと思います。

特に打楽器が今音楽界で注目されつつある理由は、色んな楽器に秘められた個性、そして新しい表現方法のポテンシャルと親しみやすさによるものだと思います。

クラシック音楽が今絶滅の危機に立たされているのは、崇高な音楽を追求するあまり大衆とかけ離れすぎた結果です。両方に片足をつっこんでる打楽器はこのギャップを埋める架け橋になれる存在だと思います。

打楽器の、必要であればドロ作業も厭わないようなフットワークの軽さみたいなものも魅力だと思います。ホルンをスティックで叩く事ができなくても、打楽器は全然叩いてなんぼですから。

 

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DeMorrow Artist Marimbaを弾いてみた感想

 

最近リタイアしたIthaca大学のゴードン・スタウトの最後の演奏会に向けて、ダグさん自らがこのアーティストマリンバをニューヨークに持って行った際、ゴードン・スタウトがこのマリンバを弾いて涙した。というほどの楽器。

実際弾いてみて、いい楽器だとは思うけど、涙が出るほど感動したかというと、よく分かりませんでした(汗)確かに鍵盤は上質なんだろうと思うんですが、パイプが小さくて低音の鳴りが今一つ。音の飛び方も楽器によるものなのか、ホールの音響によるものなのかよく分かりませんでした。でも自分のマリンバにさらに百万上乗せする価値があるかと言われると、どうなんだろう?

私は高級レストランの料理より定食屋の料理の方がおいしいと思ってしまうので、庶民の私には理解できない音なのかもしれません。

 

DeMorrowさんから学んだこと

ダグさんの意見にすべて賛成できるかどうかは別として、今回の体験で音楽とはなんぞや、芸術とはなんぞや、楽器への向き合い方など、色々なことを考える機会をもらえてよかったと思います。先代達のマリンバへの貢献があっての今があることを再確認できた事で楽器に対してもっと感謝できるようになりました。

ダグさんは百科事典のような人で、マリンバの歴史や素材などについてたくさん学べてよかったです。時間があればもっとお話ししたかったです。

 

ダグさんのお話で特に印象的だったのが、マリンバの鍵盤に使われるローズウッドについて。

マリンバの鍵盤用に使えるには100年以上たった木でないといけないらしく、この100年物のローズウッドがどんどん減少している事。このエキゾチックウッドは密接して植林すると病気になるので離れたところに少しずつしか植えることしかできず、今植えてもすぐ使えるわけではないので、これから先ローズウッドのマリンバはどんどん減少していくだろうとの事です。コンサートマリンバが発明されてから数十年。今までの歴史の中でローズウッドマリンバを演奏できる貴重な時代に生まれた事に感謝して、この貴重なローズウッドがマリンバに使われるに値するような音楽や芸術を追求していかないといけないと思いました。

 

リサイタルの写真。新曲の#Kittyの初演奏。本番上手くいってよかったです。

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